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TOSSランドNo: 1835712 更新:2012年12月29日

太陽までの距離と大きさ


地球と太陽までの距離を求める方法を授業する。
2007年2月18日(日)。神奈川ML会での、模擬C表の授業。

1.主張したいこと

 高等学校学習指導要領第2章第4節数学に、「直角三角形における三角比の意味、それを鈍角まで拡張する意義及び図形の計量の基本的な性質に理解し、角の大きさなどを用いた計量の考えの有用性を認識するとともに、それらを具体的な事象の考察に活用できるようにする。」とある。
 具体的な事象の例として、地球と太陽までの距離を求める方法を授業する。

2.教材研究

 

中学の数学で学ぶ「錯角」「相似」、高校で学ぶ「三角比」を使って、
地球・月・太陽の大きさや距離を求める。
中学2年の図形で、「錯角」を学ぶ。錯角と円周を求める公式だけで、地球の大きさ、つまり、地球の周や直径を求めることができる。
 中学3年の図形で、「相似」を学ぶ。地球の直径がわかれば、相似を利用して、月の大きさと地球から月までの距離を求めることができる。
 高校1年の数学Ⅰで「三角比」を学ぶ。三角比を利用して、地球から太陽までの距離がわかり、相似を利用すれば太陽の直径がわかる。
(1次 地球の大きさ)
6月21日(夏至の日)の正午、シエネ(アスワン)の井戸の底に太陽がうつる。シエネは北回帰線上に位置している。同じ時刻、シエネから北のアレキサンドリアでは、地面に棒の影ができていた。棒と太陽の光の角度は、円1周の50分の1(7.2°)であった。シエネとアスワンは、当時の単位で5千スタディオン離れている。したがって、地球の一周は、5千スタディオンを50倍した25万スタディオンであることがわかった。
古代ギリシャのオリュンピア競技祭で用いられた1スタディオンは185mで、地球の周長は46250㎞となる。これは、実際の値4万kmを15%上回る数字だ。エジプトの1スタディオンは157mで、この場合、地球の周長は、39250㎞となり、誤差は2%でしかない。授業では、1スタディオンを157mとした。39250㎞を円周率3.14で割ることで、地球の直径が12500㎞と求められる。
エラトステネス(Eratosthenes、紀元前275‐194年)は、このような計算で、地球の1周、地球の直径を求めた。エラトステネスは、地球の大きさを初めて測定した人物となった。地球の1周の数値を手に入れたことによって、月の大きさ、地球から月までの距離を求められるようになった。そして、アナクサゴラスとアリスタルコスによって、地球と太陽の距離、太陽の大きさが計算で求められるようになった。
エラトステネスは、アレキサンドリアの研究機関ムセイオン(museion:museumの語源)の館長を務めていた。エラトステネスは、「第2のプラトン」とも呼ばれていたことにより、「β(ベータ)」というあだ名があった。何をやっても第一人者にはなれず、つねに2番手であることへの皮肉であったという説もある。
中学2年で、「平行線の錯角は等しい」ことを学ぶ。これは、ユークリッド(Euclid、紀元前300年ごろ)の『原論』(Elements)の公準5から導かれる命題29である。中学3年で、エラトステネスのふるいを習う。中2、中3で地球の大きさを求める授業を実施する。
 シエネとアスワンの距離5千スタディオンは、歩いて測られた。毎年、ナイル川が氾濫した後、地図を作り直すためにエジプト政府が派遣した調査員が歩測していた。日本最初の地図である伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』(1821年)にも歩測は用いられている。
 エラトステネスが実際に使った棒の影は、日時計の棒(グノモン:gnomon)であると考えられている。
 円の1周が360°である「度数法」ができたのは、エラトステネスの時代より1世紀ほど後のことである。バビロニアの60進法より円の1周を360°とすることは、紀元前2世紀頃から使われるようになった。
エラトステネス以前、アリストテレス(Aristoteles、紀元前384‐322)は、地球の1周を7万km、アルキメデス(Archimedes,紀元前287‐212年)は4万8千kmと文献に残しているが、測定方法が書かれていない。
 地球の1周が4万kmとなるのは、1971年、フランスの国民議会で、「地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分の1」と1メートルと正式に採用したからである。その後、「メートル原器」によって、1メートルを定めた。メートル原器は、それ自体の長さではなく原器の両端付近に記されたそれぞれの目盛の距離が摂氏零度の時に1メートルとなるよう設定されている。1983年の第17回国際度量衡総会において、光速度を基準とする現在の定義「1メートルとは、1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである」が採用された。  
今では、カーナビゲーションシステムや携帯電話についているGPS(Global Positioning System)を利用して、2点間の緯度と距離が分かれば、地球の1周が簡単に求められる。
(2次 月の大きさと距離)
月食で黒く見える部分は、地球の影である。ピタゴラスやアリストテレスは、影の形から、地球は球であると考えていた。
月食の始まりから、月が完全に隠れる時間は、50分である。このとき、月が移動した距離は月の直径と等しい。200分後、再び月が見え始める。つまり、200分で、地球の直径だけ月が移動したことを示す。この2つの事実から、アリスタルコス(Aristarchus , 紀元前310年 - 紀元前230年頃)は、月の直径は地球の直径のおよそ4分の1であることを知っていた。しかし、アリスタルコスの時代に地球の大きさはわかっていなかった。
また、月食の写真が1枚あれば、月と地球の直径の比がわかる。地球の影の3点を通る円を垂直二等分線で作図し、写真の月と作図した地球の比を求めればよい。
満月のとき、月と五円玉の穴がちょうど重なるようにする。このとき、目から五円玉の距離は60㎝、五円玉の穴は0.5㎝(正確には0.52㎝)であった。五円玉の距離は、五円玉の直径の120倍である。「相似」の関係より、月までの距離は月の直径の120倍である。
ピタゴラスやアリストテレスが地球の球であること(地球球体論)を証明し、アリスタルコスが月の大きさは地球の4分の1であることを求め、それらのことから、地球の大きさを求めたエラトステネスが月の大きさや月までの距離を手に入れた。
今では、レーザー光を利用して、月までの距離を求める。「アポロ計画」によって、月には反射板が置いてある。月に向かったレーザー光が反射して返ってくるまでの時間は、約2.56秒である。したがって、光がつきに届くまでに1.28秒かかることになる。光の速さはおよそ30万キロメートル(正確には299,792,458 m/s)なので、月までの距離は300000(速さ)×1.28(時間)=384000キロメートルで求められる。
また、ヒッパルコス(Hipparchus,紀元前190年ごろ - 紀元前120年ごろ)は、三角比を利用して、月までの距離を求めた。月が真上に見える地点と月が水平線に見える地点の2点が、地球の中心と作る角が89°であった。すると、地球の半径と月までの距離は59倍であることがわかる。このことから、月までの距離を求めた。
(3次 太陽の距離と大きさ)
同じようにして、アリスタルコスは、地球と太陽までの距離を、三角比を利用して求めた。月が半月のとき、月・地球・太陽がなす角は87°(実際は89.85°)とはかり、太陽までの距離を月までの距離の20倍(実際は400倍)として計算した。
太陽までの距離がわかると、日食を利用して、太陽の直径がわかる。月までの距離を求めた場合で、五円玉が月に、月が太陽になったと考えればよい。つまり、月の直径を400倍すれば、太陽の直径が求まる。
実際の数値を、以下に示す。
地球の周長        40,100㎞

地球の直径        12,750㎞
月の直径          3,480㎞
地球と月の距離     384,000㎞
太陽の直径      1,390,000㎞
地球と太陽の距離  150,000,000㎞

3.単元構成

1次 地球の大きさ(4時間)
(1)錯角…中二「図形」領域「平行線の角の性質」
(2)地球の周・直径…錯角の利用・円周の公式
(3)エラトステネス…数学史
(4)GPSを利用して地球の周を求める…緯度・円周の公式
2次 月の大きさと月までの距離(4時間)
(1)相似…中学第三学年「図形」領域「相似」
(2)月食から月の直径…中一「図形」領域「垂直二等分線」
(3)月までの距離…中三「図形」領域「相似の利用」
(4)アリストテレス…数学史
3次 太陽までの距離と太陽の大きさ(4時間)
(1)三角比…高一「三角比」
(2)太陽までの距離…高一「三角比の利用」(本時)
(3)太陽の大きさ…中三「相似」(本時)
(4)アリスタルコス…数学史

4.授業の流れ

説明1:

半分の月。半月です。

発問1:

このとき、太陽の位置は、次のA,B,C、Dうちどれですか。

会場に入っていく。
指名「Aです」「そのとおり」

発問2:

地球、月、太陽を結ぶと三角形になります。何三角形ですか。

会場の一番後ろまで行く。
指名「直角三角形です」

発問3:

直角三角形になるのは、月がどのように見えるときですか。

会場を戻りながら、

指名「半月です」

説明2:

(力強く)そうだ。月が半月だからこそ、直角三角形となるのです。

説明3:

この直角三角形の縮図を書くことによって、地球から月までの距離と、太陽までの距離の比は1:400であることがわかります。

発問4:

実際の月までの距離は、38万㎞でした。
太陽までの距離を求めるには、38万㎞に何をかければよいのですか。

指名「400です」

指示1:

計算します。できた人は見せにきてごらん。

画面 38万×400=15200万㎞(1520000000)

「同じようにできた人は赤で丸をつけます」

写している人と丸をつけている人がいる。

説明4:

1億5千200万キロメートルと読みます。この地球から太陽までの距離のことを「1天文単位」と言います。宇宙の大きさを測るひとつの単位となっています。

画面「日食」

発問5:

日食です。このとき、月の位置は、A、B、Cのうちどれですか。

挙手で確認。「Aだと思う人?」「B」「C」
「Bが正解です」

発問6:

それでは、なぜAではないのですか。Cではないのですか。お隣同士で話し合ってごらん。

指名「Aだと太陽の光がもっと見えます。Cでは太陽の光が完全に見えなくなるからですね」

発問7:

月までの距離と太陽までの距離の比は、1:400でした。したがって、月の直径と太陽の直径の比は、1:何ですか。

「みんなで言います。さんはい」「400です」

発問8:

月の直径は、3500㎞です。太陽の直径を求めるには、3500に何をかければよいのですか。

指名「400です」

「計算します。できた人は見せにきてごらん」
3500×400=1400000㎞

「2つともできた人」挙手で確認。

説明5:

2000年以上も前のギリシャ人、アリスタルコスも同じようにして、太陽までの距離と大きさを求めたのです。
皆さんも2000年以上も前に生まれたいたら、歴史に残る数学者だったかもしれないですね。

発問9:

ところで、今日の授業でいきなり出てきた数字がありました。それは何ですか。

「月までの距離です」「確かに。でもそれは前の授業でやったとして」
「ほかには」「1:400です」

説明6:

1:400であることがいきなり出てきました。
高校1年の数学Ⅰに出てくる「三角比」を勉強することになります。
次回から一緒に「三角比」を勉強していきましょう。

「授業を終わります」

5.先行実践

善能寺正美氏「太陽が2m、月が5mm。どれくらい離れたら同じ大きさに見えるか。」
TOSSランド №1133044

6.参考文献

『ビックバン宇宙論(上)』、サイモン・シン著、新潮社
『ビックバン宇宙論(下)』、サイモン・シン著、新潮社
『世界でもっとも美しい10の科学実験』、ロバート・P・クリース著、日経BP社
『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30―話材+授業展開例+ワークで創る』、上垣 渉著、明治図書
『モノグラフ数学史』、矢野健太郎著、科学新興新社
『宇宙を測る―宇宙の果てに挑んだ天才たち』、キティー・ファーガソン著、講談社
『なぞとき感覚で挑戦!数学でわかる宇宙と自然の不思議』、ニュートンプレス
『頭が良くなる図解「数学」はこんなところで役に立つ』、白鳥春彦著、青春出版社
『宇宙を測る』、小尾信彌著、朝日新聞社
『はかってわかる!おどろき大百科2 地球・宇宙をはかる』瀧上豊監修、文研出版
『新しい高校地学の教科書』杵島正洋,松本直紀,左巻健男編著、講談社


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