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TOSSランドNo: 5938282 更新:2013年08月01日

『君に届け』(椎名軽穂・著)を活用した道徳の授業


『君に届け』(椎名軽穂・著)を活用した道徳の授業

1.この授業について

大変なブームになった『君に届け』(椎名軽穂・著)という少女漫画のアニメ版で、道徳の授業をした。
王子様キャラとの出会いや、暗いと見えて実は美人だったなどのお決まりな点を除いて考えれば、(漫画では、キャラクターが立たなければ売れないので強烈なキャラを設定するのは当然だ。)『ちはやふる』もそうだが、少女漫画と言ってバカにはできない点がある。
特に、扱っているエピソードの中には、高学年女子が時々起こすトラブルと、共通している点がある。

「コミュニケーション不足」

男子も同じだが、男子の方が、すぐに爆発して喧嘩になったりする点、分かりやすい。
女子の方が、激しく噴出しない分、ちょっとした行き違いで大きなトラブルになりやすい。
次のような映像で扱っているトラブルは、現実の子供たちも起こすトラブルである。

◎恋愛感情から、その子しか見えなくなって、周りが見えなくなったことで、友達から誤解される。
◎悪口を聞いて、他の人に伝えてしまうことで、大きな噂・大きなトラブルになってしまう。
◎周りの状況を見ずに相手の気持ちが読みとれなくて、誤解される。
◎周りの友達と関わることを面倒くさがる(本心ではない)
◎使うべき言葉を誤ったり、使うべきタイミングを誤ったりして誤解される。
◎する方も受け取る方も同様に相手意識が無く、誤解したり誤解されたりしている。。
◎意識し過ぎてギクシャクしてしまう。
◎言語能力が低い。
◎話を最後まで聞かないで、勝手に相手を誤解してしまう。

いずれにしろ、共通しているのは、「コミュニケーション能力の不足」である。
ライフスキル的に指導したり、場面を取り上げて生徒指導をしたりするが、それだけではおっつかない。
事件が起きてから指導する「消極的な指導」ばかりではなく、先に教えておいて、一定の予防をする「積極的な指導」が必要である。
例え、指導しても事件が起きてしまったとしても、事前の指導をしていれば、子供たちもすぐに指導を飲み込むことができ、大事な教訓に変えることもできる。特に第1話から第6話までは、場面を捉えて、子どもたちに考えさせたい点が多かった。

①きちんと正しい気持ちを話すこと。
②しなければ、何か失うことがあること。
③根拠もなく人を傷つける噂や仇名を流してはいけないこと。
④自分はダメという根性を持つと損すること。
⑤「○○くん(さん)のお陰」と思っていると幸せになれること。
⑥人に「ありがとう」と感謝し続けると幸せになれること。
⑦周りの人を尊敬し続けると幸せになれること。
⑧人の噂に惑わされて信じているものを失わなくてよいこと。
⑨どんな状況でも常にプラス思考でいると幸せになれること。
⑩人の親切は普通に受け取ってよいこと。
⑪自分を卑下せず、誰でも普通に幸せになってもよいということ。

全部今の子どもたちに必要な事だ。
併せて、ルール(法)としてやってはいけないことを指導をすることも重要である。

『社会の規範(ルール)を教える授業』(明治図書)

しかし、当然だが、学校教育の中では、罰を前提としたルール(法)だけではなく、内発的に情緒的な部分でもセットで指導していくことが必要なのである。
次の著書のような主張もあるからである。

『反省させると犯罪者になります』(岡本 茂樹著 新潮新書)

ただ、いけないことではなく、なぜ、いけないのか、なぜ、いけないと知りつつ人はやってしまうのか、内面に向き合わせることが必要である。そして、内面に向き合わせるには、双方の内面に気付かせる基準が必要である。そのためにも、この資料は優れている。
以下は、実践記録である。

2.資料

映像「第一話 プロローグ」(『君に届け』(椎名軽穂・著))
※話の中では、第2話と第5話が最も学びが多いのだが、最初を見せないと、子どもたちの感情に迫ることは難しいと考えた。

3.実践内容

(1)主な登場人物

教師は授業するに当たって、何度も映像を見るのだが、子供はそうではない。いきなり話を展開されるとついていけない児童もいる。
従って、人物関係を先に把握させた。さほど、登場人物も多くはない分かりやすい話なので、心配はないが、「黒沼爽子」「風早翔太」「吉田さん・矢野さん」の4人を絵で提示し、紹介しておいた。
あまりくどくどやらず、3分程度で、さらりと扱う。

(2)課題を出して視聴させる

ただ映像を見せても仕方がないので、次のように言ってから視聴させた。

指示1:

「主人公の黒沼さんは、『貞子』と悪口を言われてしまうほど、見た目は暗くて、周りから怯えられるほど、怖がられています。
しかし、入学式に、風早くんからいいところを見つけてもらいます。
今日は、風早くんの立場になって、黒沼さんのいいところをできるだけたくさん見つけます。」

いきなり見せるのではなく、課題を与えてから見せると、観点が入り、学びが残るからである。
この主人公の不屈さや、どんな辛い目にあってもポジティブに生きる強さを、自分で発見して、学んでほしい。

(3)映像の視聴

「見つけられない!」という反応に対しては、次のように対応する。

説明1:

「アニメの世界なら照れずに見つけられるでしょ?でも、現実の友達には照れもある。だから、アニメで見つけられない人は、現実の友達のよさを見つけられない人です。」

きっぱりと言って、単なる娯楽に逃げず、課題から気持ちが離れない様に、詰めておく。
また、子供たちが、映像に集中し過ぎて、課題を忘れている時には、「先生は今の時点で8個見つけました!」と度々言って、課題をきちんとこなせるように配慮した。

(4)いじめのシーンを考えさせる

クラスの「肝試し」の後にクラスの子から、風早くんが、主人公をだしにしてからかわれているシーンで一時停止をする。

発問1:

「この場面、クラスの子達がやっていることは何ですか?」

一斉に「いじめです。」と返ってきた。
(娯楽ムードが一気に解けて、空気がピーンと張り詰めた。)

説明2:

そのとおり。こういうことが平気でできてしまうクラスは最低ですね。
でもね、大人しい子や言い返せない子を捕まえて、こういうことをして平気で人を傷つけてしまう人がいます。

指示2:

こういう時には、絶対に止めなければなりません。
今、このシーン。風早くんの次の行動が、この後のいじめを酷くするか、止めるかの鍵になっていますね。
あなたたちだったら、こういう場面に出会った時、どのようにして周りを止めますか?
ノートに書きなさい。

う~ん、と悩んだきり、書けない子がいる。しかし、ここは是非、考えさせたい場面だ。
そこで、次の様に対応した。

説明3:

このような、いじめの場面は、現実には、とっさに現れるのです。
ここで、スッと書けない子は、こういう場面に遭遇した時に、やりすごしてしまったり、気付かなかったり、誰も助けられない人です。

すると、必死に考え始めた。
授業の中には、このような緊張と弛緩の両方が必要である。

(5)全員指名なしで発表させた。

いきなり列指名などにしてしまうと、きちんと書いている子の作業時間を奪ってしまうので、書けた子から発表させていった。
早く書けて、発表した意見はどんどん参考にしていいことを話した。すると書けない子も書けるようになった。
また、友達の意見をどんどん書いて取り入れるのだから、早く発表してしまった子も、ボーっとする時間がなくなるようにした。

自主的に最初に発表した10名には、「トリプルAとノートに書きなさい。」と指示した。
続いての10名には、「ダブルA」などと指示して、積極的に発表した子を褒めた。

こうすることで、発表が次々と増えていった。
次のような意見である。

1.「『黒沼さんに失礼だから止めろよ!』と言います。」
2.「『こういうことして、何が楽しいんダ!!』と言います。」
3.「『くだらいないことして、人を傷つけんな!!』と言います。」
4.「『かわいそうだから止めろよ!』と言います。」

道徳の授業なので、どの意見も認める。
但し、4の意見に対しては、次のように指導しておいた。
「もし、黒沼さんの立場だったら、『かわいそうだから』という理由は、もしかしたら、却って傷ついてしまう可能性もあります。」

(6)続きの映像を見る

この後、風早くんが、クラスメイトを嗜めるシーンが出てくるのだが、次のように話をした。

説明4:

人それぞれのキャラクターがあり、その場で言える言葉は変わってくる。
風早くんの言葉が正解なのではなくて、その場で自分の言葉で止められるようになるのが大切です。

主人公が、風早くんをかばって、ひっそりと身を引いたシーンで、やんちゃ坊主の男子が、こっそりと涙を拭って見ていたのにはビックリした。

(7)最後まで視聴して、主人公のいいところを発表する

子供たちから、次の意見が出てきた。

①人の物を拾って上げる
②人の期待に応えようとする
③挨拶をきちんとする
④プラス思考
⑤「こんな人になりたい」という憧れ(モデル)を持っている
⑥すぐに人の事を「いい人」と思う
⑦人に親切にできる
⑧「ありがとう」が口癖になっている
⑨進んで人の手伝いをしようとしている
⑩人に心から感謝している
⑪自分の気持ちをきちんと人に伝えようとしている
⑫どんなことがあっても人を怨まない
⑬相手のことを第一に考えている
⑭利他をしている
⑮やってみながらよりよい方法の工夫ができている
⑯実は、ポジティブ思考である
⑰自分の都合より、人のことを優先する
⑱正しいことをしようとしている
⑲ダメでも何度でも挑戦し、絶対にふてくされない

(8)「利他」と宮沢賢治

「利他」という言葉が子供達から出てきた。

発問2:

「こういう生き方を同じくしている他の有名人を知りませんか?」

この発問を行ったのは、丁度、先日野口芳宏実践の「雨ニモマケズ」の追試をした矢先だったからだ。
宮沢賢治の生き方が、「捨身利他」であることを学んでいる。
主人公の生き方も、捨て身の「利他」である意味で宮沢賢治と同じである。

「宮沢賢治」という意見がすぐに出てきた。

説明5:

雨ニモマケズの中の「賢い生き方」をする人は、今日の第一話の中にもいますね。
適当に上手く立ち回って、からかわれずに過ごしている子供達ね。

(9)「君に届け」第一話の主題に迫る

説明6:

宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の背景には強烈なパラドックスがありました。
「デクノボーと呼ばれたいとあるが、『デクノボー』と罵るものこそが、『デクノボー』である」ということだ。
黒沼さんは、恨んでいないけれども、少なくともこの話の作者はそういうメッセージを持っているかも知れないね。

基本的には、映像を見せて考えさせただけというシンプルな授業だったが、
しばらくの間は、この授業のことで、クラスの子供達は話題もちきりだった。
休み時間の中で誰かがからかわれている時にも、自分たちで「それ、この間の映像で見たやつじゃん。」と言って注意する姿が見られた。資料の力が大きい。


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