TOSSランド

コンテンツ登録数
(2017/05/25 現在)

21414
TOSS子どもランド TOSSオリジナル教材 TOSS動画ランド TOSSメディア TOSS-SNS TOSS公式(オフィシャル)サイト
TOSS子どもランド
TOSSランドアーカイブ
TOSSランドNo: 1211226 更新:2012年11月29日

着衣水泳で命を守る


1. 着衣泳の必要性
 着衣水泳はなぜ必要なのか。
 水難事故の溺死者数は各国で次のようになっている(ややデータが古いが)。

水難溺死者数(平成5年)

国名 人数(人口10万人当たり)
アメリカ 1.6人
フランス 1.2人
イタリア 1.0人
イギリス 0.5人
日本 2.7人

日本の溺死者数が,他の国に比べて異常に多いということは,この表から明らかである。なんとイギリスと比べて5倍以上である。
この原因の一つに,水泳指導に対しての指導感の違いがあると考えられる。
次の表にまとめてみた。

                        日本                                     イギリス
主な指導の系統       バタ足→クロール→平泳ぎ                           犬かき→平泳ぎ
プールの水深                浅い                                       深い
着衣水泳の指導      各学校の実態に応じて取り上げる                   90パーセント以上の学校で実施

イギリスでは,自分の命を守るための着衣水泳は,小学校を卒業するまでにほとんどの児童に受講経験がある。また,検定もあるという。
 日本ではどうか。法的拘束力がある学習指導要領には着衣水泳に関する記述はない。
指導要領解説には「着衣のまま水に落ちた場合の対応の仕方については,各学校の実態に応じて取り扱うことができる」と書いてある。
 この記述は5・6年の部分にしか見られない。1・2年,3・4年に関しては,着衣泳についての記述は全くない。
 日本のほとんどの都道府県は海に面しており,夏は海水浴も盛んであるというのに,この程度の記述しかないというのは驚きである。
 水の事故の大部分は,海や河川,湖などの自然の場所で起きている。
 プールでの事故死というのは,1パーセント程度である。
 行為別で見てみると,釣りをしているとき,通行中が多い。この2つで45パーセント程度を占めている。作業中や陸上での遊戯中というのを含めて,着衣状態での溺死が70パーセント以上となる。
 水泳や水遊びをしているときに事故にあったというのは,20パーセントほどである。
 水難者を救助するために着衣のまま入水し,死亡するという例もある。
 着衣で泳ぐという経験を学校において経験していたならば,着衣のままで水に落ちた場合,どうなるかということは分かったはずである。
 着衣水泳をすることによって,緊急時に対応する技能や心構えを養うという目的があるのである。
 着衣水泳の経験は絶対に必要であると考える。

2. 衣服の影響
水着泳と着衣泳の泳げる距離を比較した,次のようなデータがある。

泳力のある人 水着525メートル  着衣250メートル
泳力のない人 水着150メートル  着衣125メートル

泳力のある人の減少率は52.3パーセント,泳力のない人の減少率は16.6パーセントである。
 つまり,普段泳ぎのうまい人ほど,着衣だと泳げなくなるということになる。
 その原因は何か。
 泳ぎの得意な人ほど運動量が多い。したがって,その分だけ,水の抵抗も多く受けるのである。
 焦りやパニックにより,はやく泳ごうとすればするほど,腕や足などの疲労をはやめてしまう結果となる。
 これが溺死の要因の一つである。
 
 また,泳ぎにかかる時間とストロークを調べてみると。次のような結果となる。
 クロールでは,水着に比べて着衣の方が2倍の時間が掛かる。ストロークも1.5倍多くなっている。
 平泳ぎの場合はどうか。時間はおよそ1.5倍かかる。ストロークはおよそ1.3倍である。
 着衣水泳においては,クロールよりも平泳ぎの方が有効であると考えられる。
 なぜクロールの方が泳ぎにくかったのだろうか。
 ひとつは,バタ足が上手に使えなかったということが考えられる。
 靴をはいていることで足首の可動範囲が狭くなるのである。その結果,推進力を得ることができず,脚や腰が水中に沈んでいくということになる。
 もうひとつは,腕である。クロールは水面に腕を出さなければならない。しかし,ぬれた衣服の重さで,腕をスムーズにリカバリーすることができなくなってしまう。その結果,水の抵抗を受けることが多くなってしまうのである。
 平泳ぎの場合はどうか。
 平泳ぎは,キックもストロークも水中で行う。特にキックは,靴をはいていてもクロールに比べると容易である。
 着衣で泳ぐ必要のある場合は,平泳ぎの方が体力の消耗は少ないのである。
 しかし,体力の消耗などを考えると,平泳ぎも有効とは言い切れない。
 救助を待つということを考えれば,呼吸しながら浮いていることが必要である。
 無駄な動作をすることなく,いつまでも仰向けの姿勢を維持していられれば,最も体力の消耗が少ない。
 つまり,事故にあったときには背浮きやちょうちょ背泳ぎが最も有効であると考えられる。

3. 着衣泳の指導計画
着衣泳を学校で体験させていく上で,何を学習させていけばいいのだろうか。以下にまとめてみた。

(1) 着衣で水に落ちたら,どういう状態になるのか
(2) 着衣の時,どんな泳法で,どのように泳いだらいいのか。
(3) 着衣で,どのくらいの距離や時間を泳ぐことができるのか。
(4) 着衣や履き物の種類が,泳力にどのように影響するのか。
(5) 泳ぎながら,浮きながら,大きな声を出して助けを求められるか。
(6) 水中の脱衣は必要か。
(7) 身近な浮き具をどのように利用するか。
(8) 水温の低い時には,どのような心掛けが必要か。
(9) 釣りや水辺での遊びなどに出かけるときには,どんな心掛けが必要か。 

このようなことを考えながら,指導計画を立てていく必要がある。

4. 着衣泳の実際
 続いて指導について述べる。
 児童に用意させる衣服については,事前にしっかりと洗濯させておく必要がある。
 できれば,長そで,長ズボンがよい。半そで,半ズボンは水の抵抗が少ないからである。
 そして,水着の上から衣服を着て授業を行うようにする。
 時間帯については,その日の最後の時間に設定すべきである。5時間目に着衣泳をしたとすると,翌日までにはしっかりと洗浄されているものである。終了後に塩素剤の顆粒を通常の2倍程度投薬する必要がある。
 実際の指導について述べていく。

(1) プールサイドからの入水
 プールサイドから静かに入水させ,衣服が体にまとわりつく感じを体感させる。

(2) 水の中を歩く
 入水すると,身に付けた衣服にたまった空気のために,衣服が風船のようにふくらむ。これを体験させる。
 この衣服が浮き具の代わりとして使えるのである。
 衣服に水が染み込んできたら,ゆっくりと反対側の岸まで歩かせる。歩く動作の時に衣服がどう影響するかを体験させるのである。
 プールから上がるときには,衣服の重みで自力で上がれないこともあるということを体験させたい。

(3) プールサイドでカニ歩き
 低学年で有効である。低学年では水位が高い子もいるので,入水したら,サイドにつかまってのカニ歩きをさせる。
 水位の高い子は,何かにつかまっていると安心できる。
 1年生では,このカニ歩きを体験させるだけでも学習内容として十分である。

(4) ビート板でラッコ浮き
 呼吸しながら長時間浮いて救助を待つには,仰向けの姿勢で浮いていることが体力の消耗を防ぐ上で最も有効である。
 まずはビート板を使ってのラッコ浮きをさせてみる。

(5) ペットボトルでラッコ浮き
 ビート板ほどの浮力は得られないが,ペットボトルも浮き具として有効に活用できる。
 キャンプなどでの携行品として持っている場合も多いので,実際に溺れた人を見かけたときには,ペットボトルを投げ入れることもあるだろう。

(6) かばんなどでラッコ浮き
 かばんやバックなどを持った状態で水に落ちたという場合は,あわてずに中身を出せば浮き具の代わりとして使うことができる。
 かばんだけでなく,ジャンパーや長靴,木切れなども浮き具として活用することができる。
 このような経験をさせておくことで,いざというときに対処できる力を養っていくのである。

(7) 背浮き
水に落ちた時には,そばに浮き具になるものが何もない場合が考えられる。
そのような場合は,自力で浮いていることが必要である。したがって,背浮きの練習を取り入れる必要がある。
TOSS体育では,泳げるまでの習熟過程を考えて背浮きの指導から入る。そのような系統性だけではなく,命を守るという視点からも背浮きからの指導は有効であると考える。

(8) 脚や木の棒などでの救助
 救助の仕方も学習させる必要がある。
 近くにある浮き具代わりになるものを投げ込むことも必要である。そのほかに脚や木の棒を使っての救助も知っておく必要がある。
 溺れた人は岸までたどり着いても,衣服の重さや体力の消耗などにより,自力ではい上がれないことが多いという。
 腕と脚では,脚のほうが力が入る。脚を出すと,腕を出すよりも救助する側が引きずり落とされることは少ないという。

(9) バタ足
 着衣のままバタ足をすると,推進力が得られず,前に進みにくいということを体感させる。
 また,衣服もまとわりつき,脚が動かしにくく,徐々に腰が沈み出し,溺れる可能性もある。
 指導者は安全に配慮する必要がある。

(10) クロール
クロールが泳ぎにくいこと,疲れるということを経験させるために行う。
趣意説明をしないと,クロールでいかに上手に泳ぐか,いかに速く泳ぐかというところに子どもの視点がいってしまう。
対象は高学年であろう。

(11)平泳ぎ
 クロールとセットで指導する。
 着衣では,クロールよりも平泳ぎの方が有効であるということを体感させる。
 水中で腕や脚を使うので,着衣の重さがクロールほど負担にならず,体力の消耗も少ない。
 
(12)水中での脱衣
 水中では着衣の方が体温を奪われなくていいというメリットもある。
 しかしながら,体の自由を奪われるということを考えれば,衣服や靴を脱ぐことが必要である。
 脱いだ衣服で浮き具を作るという指導も大切である。

 以上のような指導を学年の系統を考えながら実施していく必要がある。
 このような指導を6年間にわたって受けてきた児童と,全く受けてこなかった児童とでは,いざというときの対処が全く異なるに違いない。
 現在の水泳指導においては,着衣水泳はおまけ程度でしか行われていないように感じる。
 しかし,自分の命を守るための水泳指導ということを考えれば,普段の指導ばかりでなく,着衣泳にも力を入れて指導すべきではないかと思うのである。


0回すごい!ボタンが押されました

コメント

※コメントを書き込むためには、ログインをお願いします。
New TOSSランド